写真における距離感の表現
Expressing Distance in Photography
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研究背景
私は絶景の地である桂林市で生まれ育ち、写真を通して風景を記録することが大好きです。写真は人々の思考を交換する率直なコミュニケーションツールであり、同じ被写体でも異なる色彩や視点、距離から撮影することで、表現する感情も異なるでしょう。したがって、一枚一枚の写真には独自の意味があると考えています。私は写真で距離感を表現することに深い関心を持っています。現実の物理的な距離と心理的な距離は異なります。日本での日常生活の経験をもとに、写真を通じて人々の間の現実的な距離感を表現し、私の心で感じる人々の間の距離感を再現できると考えています。賑やかな都市の背後にはさまざまな距離感が隠れており、これらの距離感を通じて孤独や独立、寂しさを感じることができます。つまり、私は写真を通して人々の間の真実の距離感を表現し、観客と共感を呼び起こしたいと考えています。
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研究内容
本研究では、私は都市部の人々の間の距離感を研究対象とし、心理学の視点から距離感がどのように人々の心理的反応を引き起こし、さらに孤独感や寂しさ、安全感などの心理的感覚をもたらすかを分析します。撮影の構図、色彩、画像内の人物の位置付け、比例、大きさなどで現実都市の人々の真実の距離感を観衆に伝えたいと考えています。写真が表現するのは目で見るものだけでなく、観衆と精神的な共鳴を引き起こすものだと私は考えています。この共鳴は、写真に映された人々の類似した経験に由来します。例えば、私が研究したい距離感を日常生活の中で取材し、都市に住む人々のさまざまな距離感を写真で記録します。例として、混雑した電車の中で、人々の空間が狭く、現実の空間的距離が近いため、人々はやむを得ず他人の視線や呼吸を避け、他人との距離を保ちます。電車の中で人々の距離は半メートル近くでありながら、心理的距離は遠いでしょう。このような距離感は大都市特有の孤独感です。私は、都市の人々の真実の距離感という緊張感に満ちた感情を表現したいと考えています。人々の間の距離感は変化しています。コロナの影響で、元々の距離感は安全性に重きを置く距離感に変化しています。私たちの生活の中でさまざまな変化している距離感に溢れています。写真は観衆とコミュニケーションする媒体として使われます。観衆が写真を見ると、強い共感や連想が生まれるでしょう。
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先行研究
距離感は日常生活のあらゆる場面にあり、人々の間、人々と物の間、そして物と物の間で距離感が存在しています。文化人類学者であるエドワード・T・ホール(E.T.Hall, 1959)は『沈黙の言葉(The Silent Language)』という著書で、人々の間の空間的距離を密接距離、個人距離、社会距離、公共距離という四種類に分けています。例えば、公園にいる恋人たちに注目すると、彼らは公園の静かな場所で意識的に他人とほぼ同じ距離を保っています。電車で密接に接触する人々とは異なり、公園での恋人たちは他人との距離感が安全であると感じます。距離を通じて自分だけのバブル(自我空間)を効果的に構築し、さらに心理的な安全感を得ることができます。アンド・フックスが制作した「孤独な映像」という一連の作品では、すべての画面が強い孤独感や距離感に満ちています。画面内の人物と空間の距離感がモノクロで表現され、白黒のバランスの取れたトーンや強烈な明暗のコントラストを通じて、人と都市との距離感が孤立した寂しいものであることを示しています。ポーランドの女性写真家、Justyna Zduńczykが撮影した『Unseen Thoughts』では、パチンコやカラフルな照明を通して、無表情でじっと座っている人々による孤独な距離感を表現しています。混雑した電車の中で、人々がじっとして疲れた距離感を表現しているのです。
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研究目的
本研究の目的は、撮影を通じて現実の人々、都市、風景を記録するだけでなく、これらの背後に隠される緊張感や感情を探求し、記録することです。写真の背後に隠された事物を探し出すことで、写真が現実よりも幅広い意味を持つことに気づくことができるでしょう。都市の中の普通の人々や物事を異なる視角から捉えることで、さまざまな心理的感覚が生まれることが期待されます。筆者は、精神的に共鳴を引き起こす写真を撮影し、様々な距離感を発見することで、観衆に共鳴を引き起こすことができるようになることを研究目的としています。このような研究を通じて、写真を通じた人々の間の真実の距離感や心理的反応に関する理解を深めることができることを目指しています。
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研究方法
1、関連資料の収集と分析法:テーマに関する研究資料や文献を収集し、図形や色彩の構図など心理学の知識を活かして、いかに写真で距離感を表現するかを分析します。これにより、写真の構図や色彩、画像における人物の位置づけ、比例、大きさなどの要素を利用して、観衆に心理的な共鳴を引き起こす写真を作成することができるようになります。
2、アンケート:予備調査と本調査:バウハウスの理論から、「色・図形・配置の効果と心理への影響」について2020年9月、中国人留学生20人にアンケートによる予備調査を行いましたが、本研究では、調査規模を拡大し、より広く深く調査を行います。具体的には、「街中の色や模様、配置が人にどのような心理的効果を与えるのか」を分析し、写真における距離感のなかで生まれる孤独感などの距離感を活用していきます。
3、実践研究法:都市の人物を観察することで、様々な距離感を探し出します。日常生活でのシーンや空間、人々の距離感がある写真を撮影します。これにより、現実の都市の人々の真実の距離感を観衆に伝えることができるようになります。