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研究ノート

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前期の作品として、浜松まつりに取材した作品群を提出しましたが、取材して感じたこと、考えたことを研究ノートとしてまとめました。

2023年7月

 

静かな戦争 
  –––浜松祭り中の"激練り"という活動の深層矛盾 –––

 

1.序論 
 浜松祭りは、日本静岡県浜松市で毎年5月に開催される年中行事。三日間にわたって200万人の観光客で賑わうこの祭り、その歴史は室町戸時代にまで遡ると言われています。凧揚げ合戦、大規模な屋台の引き回し、豪華な衣装、そして独特の"激練り"という出し物で知られています。人々が一堂に会し、共に喜びと祝福に満ちたこの祭りを祝う様子は、まさに社会的な調和と一体感の象徴のように映ります。 
 しかし、その華やかな表面の下には、一見すると見えにくい心理的な矛盾が潜んでいます。それは、"激練り"という活動を中心に展開されます。"激練り"は、各団体が口号を叫びながら熱烈にパフォーマンスを展開する活動です。見ている者には、これが単なる喜びに満ちた祭りの一部に見えるかもしれません。しかし、この活動の背後には、一つの見えない戦争が進行しています。 
 この見えない戦争は、各団体のリーダーたちが自分たちのパフォーマンスに対して内心で感じているプレッシャーによって生まれます。彼らは他の団体に比べて自分たちのパフォーマンスが劣っているのではないかという恐怖に襲われ、自分たちの団体が最高のパフォーマンスを発揮できるように、懸命に努力を続けています。この研究では、このような心理的な矛盾と、それが浜松祭りの"激練り"活動にどのように影響を与えているのかについて考察します。 

 


 2. "激練り"活動とその裏の対立 
 "激練り"は浜松祭りの特徴的な活動で、参加団体は一体感とエネルギーに満ちています。各団体は自分たちの口号を力強く叫び、太鼓のリズムに合わせてリズミカルに動きます。そのエネルギッシュなパフォーマンスは、観客を魅了し、祭りの雰囲気を盛り上げます。 
 しかし、その活動の背後には、隠された競争と緊張が存在します。各団体のリーダーは自分たちのパフォーマンスに対する強い責任感を抱いています。彼らは自分たちの団体が最高のパフォーマンスを発揮し、他の団体に引けを取らないように、細部まで丁寧に準備します。 
 この準備は、リーダーたちの心に大きなプレッシャーを与えます。彼らは表面上は楽しそうに見えるかもしれませんが、内心では団体のパフォーマンスがどう評価されるのか、他の団体と比べてどう見えるのかという恐怖に苛まれています。リーダーたちは他の団体に負けないようにと、常に競争心を燃やしています。 
 このように、"激練り"の活動は見た目の華やかさとエネルギーの背後に、リーダーたちの心理的な緊張と競争心を隠しています。これは、見えない戦争とも言えます。これは、浜松祭りの一部として表面的には喜びと一体感を祝う活動の裏で、リーダーたちが自分たちのパフォーマンスと評価について深い懸念を抱いていることを示しています。 

 


 3.組長と組員の心理的距離
 この「激練り」における内部対立は、組長と組員の間の心理的距離を生み出します。組長は、組の名誉を守るため、そして自身のパフォーマンスが他の組より劣っていると思われないように、自身のパフォーマンスに対する高い期待値と圧力を感じています。これは、組員たちが経験する祭りの喜びとは大きく異なる体験であり、組長と組員の間の心理的なギャップを生み出します。 
 組員たちは、祭りを楽しみ、共に喜びを分かち合うことに重きを置いています。彼らは、組長が抱えるプレッシャーと比べると、祭りの楽しさをより直接的に体験できます。しかし、組長が抱えるこの不安とプレッシャーは、しばしば組員たちにとっては見えにくいです。これにより、組長と組員の間の心理的な距離が生まれます。 
 また、組長は組員たちに対して、常に最高のパフォーマンスを提供するための指導と指示を行います。この指導の背後には、組長の期待と不安が隠されています。この期待と不安が組長の行動を駆り立て、組長と組員の間の心理的な距離を一層広げます。 
 これらの因素は、組長と組員の間にある心理的な距離を生み出し、それが"激練り"の複雑な心理的なダイナミクスを形成します。それは、外から見れば楽しみで溢れている祭りの活動が、心では競争とプレッシャーに満ちた状況になる理由を説明しています。 
 浜松祭りの"激練り"の活動とその中に存在する心理的な対立は、一つの社会現象として見ることができます。それは、表面上は喜びと祝福に溢れている一方で、内部では競争とプレッシャーが存在するという、この独特な現象を通して、私たちは人間の集団行動と心理について深く理解することができます。 
 この観察は、一見矛盾するように見える感情が共存することを通じて、人間の社会行動の複雑性を示しています。同時に、これは人間の集団活動におけるリーダーシップの役割、及びそのプレッシャーという観点から、私たちの理解を深める機会を提供します。 
 特に、"激練り"の中での組長と組員の間の心理的な距離は、リーダーシップの負担とその心理的な影響を示しています。それはリーダーが組織内で果たす役割の重要性を強調しており、同時に、その役割がリーダー自身にどのような心理的な影響を及ぼすかを示しています。 
 これらの視点は、私たちが社会現象を理解するための新しい枠組みを提供します。それは、表面上の喜びと祝福の裏に隠された心理的な矛盾と対立を理解し、それが私たちの日常生活の多くの側面にどのように影響を与えるかを理解するのに役立ちます。 

 


 4.結論 
 この研究は、浜松祭りの「激練り」活動における見えない競争と心理的な距離を明らかにしました。祭りの表面的な喜びの背後には、組長と組員の間の複雑な心理的なダイナミクスと競争が存在しています。これは「激練り」の内部に見られる、見えない「戦争」の現れであり、組長と組員間の心理的な距離を生み出します。 
 これらの心理的な距離と緊張は、団体全体のパフォーマンスと行動に深く影響を及ぼし、団体内部のコミュニケーション、協力、そして時には競争に影響を与えます。組長は団体の名誉とパフォーマンスを保つために圧力を感じ、組員たちは祭りの喜びと同時に組長からの期待に応えるために最善を尽くします。 
 この研究は、「激練り」における心理的なダイナミクスとその影響を理解することで、浜松祭りが単なる祭り以上のものであることを示しています。それは、個々の参加者と団体が共同で創り出す複雑な社会的なダンスであり、その中には競争、協力、期待、そして楽しみが混在しています。 
 この認識は、浜松祭りを理解するための新たな視点を提供します。そしてそれは、祭りが単なる楽しみだけでなく、一連の複雑な社会的なダイナミクスと心理的なプロセスを通じて、参加者の個々の行動と団体の行動を形成していることを示しています。 

 

2023年7月

追記

​7月下旬の院生展に、作品を出品した。プリントは東京神田の写真弘社に依頼し、ラムダプリントという方法を用いた。印画紙にレーザーでデータを焼き付け銀塩処理で像を作る方法で、昔ながらの銀塩写真と全く変わらない再現性保存性を持っている。今回はRC紙にプリントしたがバライタ紙も可能。今後試してみたい。  

https://www.shashinkosha.co.jp/index.php

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