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研究ノート

2024年7月

 

前期の作品として、百物揃千人武者行列に取材した作品群を提出しましたが、取材して感じたこと、考えたことを研究ノートとしてまとめました。

1、序論

本研究報告の目的は、木村伊兵衛と土門拳の写真理念を分析し、これらの理念が日本の伝統行事である日光「百物揃千人武者行列」の撮影にどのように影響したかを探ることです。まず、この伝統行事の背景を紹介し、その後、木村伊兵衛と土門拳の写真理念を詳細に論じ、具体的な写真を通じてこれらの理念が私の作品にどのように反映されたかを示します。

 

2、日光「百物揃千人武者行列」の背景

日光市は栃木県に位置し、豊かな歴史と文化遺産を有する都市です。毎年10月、日光市では「百物揃千人武者行列」が開催されます。この行事は17世紀に始まり、徳川家康や日本の戦国時代の英雄たちを記念するためのものです。現在では、この行事は壮大な歴史再現のパフォーマンスとしてだけでなく、日本文化の象徴としても知られています。

 

3、木村伊兵衛と土門拳の写真理念とその形成背景

木村伊兵衛の写真理念とその形成背景

木村伊兵衛(1901-1974)は東京で生まれました。彼の写真理念は彼の初期の生活と職業人生に大きく影響されています。木村は1930年代に写真を始め、その時期は日本社会が大きく変動していた時期でした。

 

木村の初期の作品は主に街頭写真で、一般市民の日常生活を捉えたものでした。彼は写真が現実の瞬間を忠実に記録するべきだと強調し、自然な感情と細やかな生活のディテールに重きを置きました。この理念は当時の西洋のドキュメンタリー写真家たちからも影響を受けました。特に、アメリカの写真家ウォーカー・エヴァンス(Walker Evans)やドロシア・ラング(Dorothea Lange)など、社会問題をテーマにした作品に触れることで、彼のドキュメンタリー写真に対する意識が深まりました。彼は日本の伝統文化の繊細な表現を組み合わせ、その作品に独特の特色を与えました。木村の代表作『昭和の人々』シリーズは、昭和時代の日本の普通の人々の生活を素朴なカメラアイで描き、その中にあるリアルな感情と日常生活の美しさを記録しています。

木村の後期の作品は主に日本各地の風景や伝統文化をテーマにした写真を多く発表でした。その写真は綺麗な瞬間を記録するべきだと強調しました。その原因は1950年代にフランスを訪れた際、木村はアンリ・カルティエ=ブレッソン(Henri Cartier-Bresson)「決定的瞬間(The Decisive Moment)」というコンセプトは、木村の作品に大きな影響を与えました。カルティエ=ブレッソンのストリートフォトグラフィーや日常の瞬間を捉えるスタイルは、木村のリアリズムの追求に新たな視点をもたらしました。

 

土門拳の写真理念とその形成背景

土門拳(1909-1990)は山形県で生まれました。彼の写真理念は、彼自身の経験と社会背景に大きく影響されています。土門拳は日本の戦後の社会動揺と変遷を経験し、これが彼の社会問題と人間の感情への深い洞察力を育みました。

 

土門拳の写真スタイルは、強烈なリアリズムと深い社会洞察力を特徴としています。彼の作品は人物の表情や動作の細部を通じて、社会の変遷や人々の生活状態を浮き彫りにします。土門拳にとって写真は単なる記録ではなく、深い社会的意義と人間への思いやりを表現する手段でした。彼の代表作『筑豊の子どもたち』シリーズは、日本の戦後の貧困地域の子どもたちの生活を生き生きと記録し、彼らの強靭さと希望を観る者に伝えています。この力強さこそが、土門拳が求めた写真の効果です。

 

4、理念が写真作品に与えた影響

 

写真一:「時の流れ」

 

この写真は、日光「百物揃千人武者行列」における一隊の武士たちを描いています。彼らは真剣な表情を浮かべ、赤い武器を持ち、整然と行進しています。写真の構図と光の使い方により、観る者に隊列の厳粛さと歴史の重みを感じさせます。この静的な瞬間の捉え方は、木村伊兵衛が強調した生活の細やかなディテールと瞬間の美しさを表現すると同時に、土門拳の人物感情の深い描写をも反映しています。

 

写真二:「道の静寂」

 

この写真は、伝統的な衣装を着た二人の僧侶が背を向けて行列の後ろを歩いている様子を捉えています。彼らの姿は長い道のりの中で孤独ながらも確固たるものに見え、前方の行列と周囲の観客が対照的です。この背影の捉え方は、行列の厳粛さと歴史的感覚を示すだけでなく、静寂と思索の雰囲気も伝えています。このような背影と環境の捕捉方法は、木村伊兵衛が追求した瞬間の美しさと、土門拳が持つ人間への深い洞察を反映しています。

写真三:「祭りの魂」

 

この写真は「百物揃千人武者行列」の一部である大場面を捉え、伝統的な神輿とそれを担ぐ武士たちを描いています。写真の中の各要素が物語を紡ぎ出し、神輿の豪華さ、担ぐ人々の集中した表情、周囲の観客の関心と期待が見て取れます。このような全景の撮影方法は、土門拳が重視した社会的背景と環境の表現に影響を受けており、広い視野で社会的出来事の全貌とディテールを示しています。

五、結論

木村伊兵衛と土門拳の写真理念を学び、それを日光「百物揃千人武者行列」の撮影に応用することで、瞬間と細部の捕捉能力を向上させるだけでなく、日本文化への理解も深めました。この撮影経験は、私の写真作品集を豊かにし、将来の写真プロジェクトに新たなインスピレーションと洞察を提供してくれました。

 

木村伊兵衛と土門拳の写真理念は、彼らの個人的な経験と社会背景を反映するだけでなく、写真芸術に対する深い理解をも示しています。彼らの作品と理念は、私の写真創作において重要な指針とインスピレーションを提供してくれました。

 

2024年7月

追記

​7月下旬の院生展に、作品を出品した。プリントは東京神田の写真弘社に依頼し、デジタルカラープリントという方法を用いた。印画紙にレーザーでデータを焼き付け銀塩処理で像を作る方法で、昔ながらの銀塩写真と全く変わらない再現性保存性を持っている。今回はRC紙にプリントしたがバライタ紙も可能。今後試してみたい。  

https://www.shashinkosha.co.jp/index.php

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